「なぜうちの子は方言を使わないの?」ASDと言葉の特性をやさしく解説

自閉スペクトラム症(ASD)の人は「方言を話さない」という話を耳にすることがありませんか?

実際、全国各地の特別支援教育の先生への調査でも「ASDの人は方言を話さない」という共通の印象があることが確認されています。

この記事では、その理由や背景をやさしく解説し、周囲の人ができる支援について考えてみます。

ASDの人が方言を使わないと感じるのはなぜ?

言葉の覚え方の違い:メディアから学ぶ標準語

ASDの人が方言を使いにくい理由の一つに、「言葉の習得方法の違い」があります。

多くの人は幼い頃、家族や友達との会話を通じて自然に方言を身につけます。しかし、ASDの特性として、人とのやり取りよりもテレビや動画、書籍など メディアを通じて言葉を学ぶ傾向 が指摘されています。

例えば、家族全員が関西弁なのにASDのお子さんだけが完璧な標準語を話すケースが報告されています。この子は幼児期にお気に入りのDVDを繰り返し見てセリフを暗記し、それを日常生活で使うようになったとのことです。

つまり、周囲の生の会話より、テレビや本などから得た標準語のフレーズ のほうをよく覚えてしまうのです。

この現象は日本だけでなく世界でも見られます。

アイスランドでは「若いASDの人はアイスランド語より英語を好んで話す」といった報告や、アラビア語圏でも「日常は方言なのに、ASDの子が学校で習う標準アラビア語をやけに身につけている」という話があるそうです。

いずれも日常で使う言葉と、テレビや教育で主に使われる言葉が異なる地域です。日本の方言と標準語の関係もこれと似ています。

ASDの人は人とのやりとりで言葉を学ぶのが得意ではない分、自分の興味のあるメディアから言葉を学びがちです。

その結果、周囲が方言で話していても、本人はメディアで耳慣れた標準語で話すことが多くなると考えられています。

言葉の使い分けが苦手:心理的距離と方言

もう一つの理由は、場面や相手に応じた言葉の切り替えの難しさです。

方言には「親しい相手には方言、よそ行きには標準語」というように、心理的な親しさや距離感を表す役割があります。これはちょうど、共通語におけるタメ口と丁寧語の関係に似ています。

しかし、ASDの人は相手との心理的距離を測ることや空気を読むことが苦手な傾向があります。

「この人には方言でOK」「この場では標準語で…」といった使い分けが難しく、一律に覚えた標準語で話してしまいやすいのです。

特に、方言は多くの場合カジュアルな砕けた表現なので、距離感の調整が苦手だと使うハードルが高く感じられます。

また、ASDの人の中には会話の柔軟さが苦手なため、「咄嗟に方言で返す」という即時的な切り替えが難しい場合もあります。

例えば、頭の中で文章を書くように言葉を組み立てて話す人だと、日常会話で用いるくだけた方言より、教科書どおりの標準語の方が話しやすいのかもしれません。

実際に「発達障害の子は、口語と文語の使い分けがうまくいかず、書き言葉で覚えた標準語で話してしまうことが多い」という指摘もあります。

こうした特性から、ASDの人は方言と標準語を状況に応じて、バイリンガルのように使い分けるのが難しい傾向があると考えられます。

個人差もある:方言を話すASDの人もいる

ここまで「ASDの人は方言をあまり使わない理由」を述べましたが、すべてのASD当事者が方言を話さないわけではありません。

ASDの特性や程度には個人差が大きく、実際の臨床現場でも方言で話すASDの方もいれば、標準語で通す方もいます。

例えば「積極型」と呼ばれる人(人懐こく社交的なタイプ)の中には、周囲とよくおしゃべりをして 方言も上手に使う 方もいます。

一方で、知的障害を併せ持つ場合などは言葉自体の習得がゆっくりで、結果的に環境で教わる標準語が中心になり 方言まで手が回らない こともあります。

また、成長とともに変化する場合もあります。

小さい頃は標準語ばかりだったASDのお子さんが、思春期以降に周囲への関心が高まるにつれて地元の方言を話すようになった例も報告されています。

その方は方言を使い始めた時期に対人関係への興味が芽生え、親しい友人ができたことで社会的スキルが向上したそうです。

このように、ASDの人でも環境や対人経験によっては徐々に周囲の言葉を取り入れていくこともあります。

方言を話さなくても大丈夫!その理由と安心ポイント

「方言を話せない=劣っている」わけでは決してありません。

むしろ、ASDの診断基準では言葉の遅れ自体は必須ではなく、どちらかと言えば文脈理解ややりとりの苦手さといった面が重視されます。

実際、ASDの人の中には語彙が豊富で国語の成績が良い人もいますし、丁寧できちんとした話し方をする人も少なくありません。方言を使わないからといって言語能力が低いわけではないのです。

それに、標準語は日本全国で通じる言葉なので、たとえ地元の方言を話さなくても、コミュニケーション自体は問題なく取れることがほとんどです。

周囲の人さえ理解していれば、大きな困り事にはなりません。

むしろ、本人にとって大切なのは、「自分の伝えやすい話し方で安心して話せる」ことです。方言でない話し方を周囲が受け入れてくれれば、ASDの人もプレッシャーなく会話に参加できます。

ただ、中には「みんなと話し方が違うせいで仲間に入りづらい…」と感じてしまう当事者もいるかもしれません。

周囲が方言で盛り上がっていると、自分だけよそよそしい気がして孤独感を覚えることも考えられます。

その点は家族や周囲のサポートでカバーしてあげましょう。次の項では、その具体的な方法を提案します。

家族や周囲ができるサポート

1. 無理に方言を話させようとしない:

まず大前提として、本人の話しやすい言葉で話すことを尊重しましょう。

方言を使わなくても会話はできますし、それが本人にとって自然なら問題ありません。

「方言で話しなさい」と強制するとプレッシャーになり、かえって話すこと自体が嫌になってしまう恐れもあります。

2. 周囲への理解促進

家族や学校の友達にも、この特性について説明しておくと良いでしょう。

「この子は標準語で話すけど、それが話しやすいだけなんだ」と周りが理解すれば、変にからかったり疎外したりせず受け入れてもらいやすくなります。

地方では標準語=よそよそしい印象を持つ人もいますが、決して本人に悪気がないことを周囲に知ってもらうことが大切です。

3. 安心できるコミュニティ作り

本人が孤独感を持たないよう、安心して話せる友人関係を築く手助けをしましょう。

例えば、共通の趣味のグループや、発達障害に理解のある活動教室などに参加してみるのも一案です。そうした場では、話し方の違いよりも共通の話題で盛り上がれるので、「自分だけ違う」という不安が和らぎます。

4. 方言に興味を示したらサポート

本人が「地元の言葉を使ってみたい」と感じている様子なら、家族でゲーム感覚で練習してみるのも良いでしょう。

たとえば、日常の中で簡単な方言単語を一緒に使ってみて教えるといった方法です。

ポイントはあくまで楽しみながらであり、間違えても笑い合える雰囲気で行うことです。本人がプレッシャーなく方言に触れられれば、少しずつ表現の引き出しが増えるかもしれません。

5. 専門家への相談

言葉の使い方について心配が強い場合は、発達障害の支援機関や言語聴覚士、心理士などに相談するのも手です。

プロの視点からアドバイスをもらえば、家庭でどんな働きかけができるか具体的なヒントが得られるでしょう。

まとめ

ASDの人が方言を話さない傾向は、決して気のせいではなく研究でも示唆されています。

その背景には、言葉の覚え方がメディア寄りであることや、対人関係に応じた言葉の切り替えが苦手なことなど、ASD特有の理由があると分かってきました。

しかし、それは本人の努力不足でも劣っている点でもありません。標準語で話すことは本人の個性でありコミュニケーション手段の一つです。

大事なのは、お互いに分かり合うことです。

言葉遣いが多少違っても、相手を思いやる気持ちや伝え合いたい内容がしっかりしていれば、十分に心は通じます。もし身近にASDの特性を持つ方がいて方言を話さない場合も、「そういう傾向があるんだな」と知り、どうか温かく見守ってください。

周囲の理解とサポート次第で、本人も安心して自分らしく話すことができ、より良いコミュニケーションが育まれるでしょう。

最後に、家族や支援者の皆さん自身もあまり思い悩まないでください。

「方言を話さない」ことばかりに目を向けるより、今できている会話や伝え合えていることに目を向けてみましょう。

お子さんが安心して話せる環境を作っていくことで、ゆっくりかもしれませんが少しずつ世界が広がっていくはずです。あなたのサポートが、ASDの当事者にとって何よりの安心材料になります。

一緒に、その人らしいコミュニケーションの形を見つけていきましょう。

【参考】

自閉症の人は方言を話さないって本当ですか

「自閉症は津軽弁を話さない」この謎に挑んだ心理学者が痛感したこと

ASDと方言〜カギは言語習得のソースと対人距離

 

【オススメ本】

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tetsuya
北海道在住の35歳。 元ホテルマン。30歳で一念発起して、大学に入り直し、心理学を学ぶ。医療機関で実務経験を積んだのち、公認心理師を取得。月に10冊以上本を読んだり、論文を読み漁ったりして得た知識をブログでシェアします。