コロナ感染者を責める心理を解説。「自己責任論」と「公平世界理論」

新型コロナウイルスの主な感染経路は接触感染、マイクロ飛沫感染だと考えられています。普通の飛沫の飛距離はせいぜい1~2mですが、普通の飛沫よりも小さいマイクロ飛沫は2mを超えます。

また、感染者のうちの約8割が無症状だと言われているため、知らず知らずのうちに感染している可能性もあります。

このような状況ではいくら注意をしても、感染してしまう可能性があるため、仕方ないと言えます。

 

それにもかかわらず、感染者を激しく責めるような行動が起きています。

このような現象の裏には、感染した人に責任があると考える「自己責任論」があります。そして、自己責任論が生まれる背景にあるのは、多くの人が抱いている「公正世界信念」と呼ばれる心理です。

 

日本は「感染は自業自得」と思う人の割合が多い

大阪大学大学院で社会心理学が専門の三浦麻子教授らは、2020年3月~4月にある調査を行いました。その調査は以下のような内容です。

「新型コロナウイルスに感染した人は自業自得だと思うか」という質問に対し、「まったくそう思わない」から「非常にそう思う」までの賛否の程度6段階で選んでもらいました。

この調査はインターネット経由で日本、アメリカ、イギリス、イタリア、中国の5か国で実施され、400~500人が参加しました。

 

下のグラフは「どちらかと言えばそう思う」「ややそう思う」「非常にそう思う」と答えた人の割合を国別で表したものです。

三浦麻子教授らが行った調査の結果をもとに作成

ご覧いただくと分かる通り、日本は他の4か国に比べて、感染を自業自得だと考える割合が高かったのです。

 

今回の調査に限らず、このような「自己責任」に関する国際的な調査を行うと、「自己責任である」と回答する割合が、他の国々に比べて日本は高い傾向にあるようです。

マインドパレッサー
この「自己責任論」はどのように生まれるのでしょうか?

「自己責任論」の背景にある「公正世界信念」

Image by Hans Braxmeier from Pixabay

三浦麻子教授は、「自己責任論」が生まれる背景には「公正世界信念」と呼ばれる心理が関係していると指摘しています。

公正世界信念とは、「良いことをした人は報われ、悪いことをした人には良くないことが起こる」と考えることです。

公正世界信念は社会心理学者メルビン・ラーナーが提唱しました。

 

この公正世界信念を強く持っている人は、「感染予防をちゃんとしていたら、感染しないはず」と考えます。

そして、感染した人がいた場合、「ちゃんと感染予防してなかったからだ!」と感染者をバッシングしてしまうのです。

痴漢やレイプされた女性に対して、「どうせ露出の多い服を着てたんでしょ?とか「ちゃんと抵抗しなかったんでしょ?」と被害者を責めるのも、この公正世界信念が関係しています。

そもそも何で人は公正世界信念を持つんだろう?
マインドパレッサー
それは心の平穏を保つためです。良い行いをしている人がひどい目に遭い、悪いことをした人が幸せに暮らしている。そんな無秩序で理不尽な世界だと、いつ自分の身に大変なことが起こるのかと不安になります。それを避けるために、人は「世界は公正な場所でちゃんとしてたら大丈夫」と考えるのです。

 

【公平世界理論に関する記事】

 

どういう場合に「犠牲者非難(victim derogation)」が起こるか

公正世界信念があっても必ずしも、コロナ感染者や事件の被害者を非難する「犠牲者非難」が起こるわけではありません。

例えば、2019年4月に東京・池袋で起こった暴走した乗用車が母子を轢く事故など、被害者と加害者がハッキリしているような場合は、加害者を批判することで公正世界信念を維持することができます。

 

しかし、加害者を特定できなかったり、十分に加害者を罰することができないと場合、矛先が被害者に向かってしまうことがあるのです。

最後に

日本が他国と比較して、治安が良いと言われている背景には、もしかしたら公平世界信念があるかもしれないですね。

しかし、その考えが強いとコロナ感染者を責めてしまうこともあるようです。

 

【参考文献】

科学雑誌「Newton」コロナはなぜ冬こそ危険か。コロナ時代の心理学(2021/01)

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tetsuya
北海道在住の35歳。 元ホテルマン。30歳で一念発起して、大学に入り直し、心理学を学ぶ。医療機関で実務経験を積んだのち、公認心理師を取得。月に10冊以上本を読んだり、論文を読み漁ったりして得た知識をブログでシェアします。