自分で自分自身のやる気を引き出すのは難しいですが、他人のやる気を引き出すのはもっと難しい。
他人の行動を促す方法として「アメとムチ」があります。ご褒美(アメ)をあげたり、叱る(ムチ)ことですね。
「アメとムチ」のように、外部から働きかけることを心理学の世界では、外発的動機づけと言います。
一方、行動すること自体が楽しい!と自ら積極的に行動することを内発的動機づけと言います。
心理学的には、外発的動機づけよりも内発的動機づけの方が優れていると考えられています。
外発的動機づけは使いようによって、他人のやる気を削いでしまうこともありますし、内発的動機づけを引き出すことも出来ます。
この記事では、「ほめる」と「しかる」どっちが有効なのか?、どんな場合に外発的動機づけがやる気を削いでしまうのか、などを解説していきます。
「やる気スイッチ」の正体に関してはこちらの記事をご覧ください
子どものやる気を引き出す方法!「ほめる」と「しかる」どっちが有効?
結論から言うと、「ほめる」方が有効です。
それは心理学実験によって明らかになりました。
1925年、アメリカの心理学者エリザベス・ハーロックは同じくらいの算数の能力を持った9~11歳の子どもを80人集めて、算数の試験を5回受けてもらいました。
そして、以下の3つのグループに分けました。
試験を返却する際に、
グループA:「試験の成績良かったね!」などと褒めて返却する
グループB:「試験の成績、悪かったぞ!」と叱りながら返却する
グループC:何も言わずに返却する
その結果、1回目の試験は3つのグループの成績は変わりませんでしたが、2回目は「ほめる」と「しかる」グループの成績が同じくらい伸び、「何もしない」グループの成績はあまり伸びませんでした。
3回目以降は、「ほめる」グループの成績は順調に伸びていきましたが、「しかる」グループは停滞しました。
この実験から、2回目の試験時に「しかる」グループが「ほめる」グループと同じくらい成績が伸びたことから、瞬間的には成績を伸ばす効果がありますが、繰り返すと成績が伸び悩むということが分かりました。
つまり、「しかる」よりも「ほめる」方が効果が長続きするので有効だと言えます。
元々やる気がある人にご褒美は逆効果!?
「ほめる」ことで、他人の内なるやる気(内発的動機づけ)を引き出すこともあれば、やる気を削いでしまうこともあります。
「ほめる(外発的動機づけ)」が「内発的動機づけ」に変わっていくプロセスを説明します。
「外発的動機づけ」が「内発的動機づけ」に変わる
最初は、良い成績をとれば親に褒めてもらえる、あるいは叱られるから仕方なく勉強をします。
しばらくすると、自分が良い子であることを示すために勉強をするようになります。
その後、自分から進んで勉強するようになります。
ここまでの段階では、まだ「ゲームをしたい!」などの他の欲望も抱えていて、「勉強をしないといけない」と「ゲームをしたい!」がぶつかり合っている状態です。
それを乗り越えると、「ゲームは好きだけど、それよりも良い成績をとるために勉強しよう!」と葛藤を感じなくなっていきます。
そして、最終的に良い成績をとるためではなく、勉強すること自体が楽しい(内発的動機づけ)という境地にたどり着きます。
お金をあげたら、やる気がなくなった?
1971年、アメリカの心理学者エドワード・デシは大学生24人を集め、その当時流行っていたパズルを3日間やってもらいました。
24人はグループAとグループBの2つに分けられました。
1日あたり、30分間パズルを取り組んでもらうセッションを2回行い、その間に8分間の休憩を入れました。
実は、この実験で観察していたのは、30分間のパズルセッションの結果ではなく、8分間の休憩中にどれだけパズルに取り組むのかだったのです。
実験室には、休憩中に時間を潰せるように雑誌など、パズル以外のものも置いてありました。
1日目‐みんな同じ条件でパズルに取り組んでもらいました。
2日目‐グループAにだけ「パズルが解けるにつき、1ドルの報酬をあげる」と伝えました
3日目‐グループAに「今日は報酬を用意していない」と伝えました。
グループBは3日間、ひたすらパズルを解いてもらいました。
その結果、1日目は両チームとも同じくらい休憩時間中でもパズルを解いていましたが、2日目にグループAが「パズルを解くごとに報酬をもらえる」と聞いて、やる気を出したため、グループBよりもパズルに取り組みました。
しかし、3日目は「報酬を用意してない」と伝えられたグループAはやる気を失い、休憩時間中はあまりパズルに取り組みませんでした。
グループAもグループBも元々、流行っていたパズルに興味があり、やる気がありました。
しかし、グループAは報酬を与えられたことで、行動の目的が報酬をもらうこと(外発的動機づけ)にすり替わってしまったのです。
つまり、元々やる気がある人に「アメ」を渡すことはかえって、その人のやる気を奪ってしまうことになりかねないのです。
「期待」すると成績がアップする!「ピグマリオン効果」とは?
「あなたは出来る子よ!」と親が子どもに「期待」することで、子どもがその期待に応えるように成績が伸びることがあります。
これを「ピグマリオン効果」と言います。
1968年、アメリカの心理学者ロバート・ローゼンタールは同じくらいIQを持つ小学1~6年生を集めました。
そして、その中の5分の1の生徒をランダムに選び、担任教師に「あの子たちは有望だから、どんどん成績が伸びるだろう」と嘘の情報を伝えました。
すると、驚くことに1年後、本当にその生徒たちの成績が伸びたのです。
担任教師は「良い成績をとれば褒める」「成績が悪くても叱り過ぎない」など、無意識のうちに「有望だと伝えられた生徒」のやる気を引き出すように行動した結果だろう、とローゼンタール氏は考えました。
最後に
「ほめる」と「しかる」の使い分けも大切ですが、子どもとの関係性も非常に重要です。
人には「他人に認められたい!」という欲求(承認欲求)があります。人の欲求に関してはこちらの記事をご覧ください。
特に、良好な関係の相手に「自分は認められている!」という気持ちが、強い動機付けにつながると言われています。
他人のやる気を上手く引き出せない、という時は相手との関係を見直してみるのが良いかもしれません。
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『Newton 2020/2』教育の心理学
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