女性を憎む「インセル」とは?非モテはなぜ過激化してしまったのか?

2018年4月、カナダの都市トロントの路上でワゴン車が通行人の列に突っ込み、8人の女性と2人の男性が殺害され、ほかにもたくさんの重軽傷者を出す悲惨な事件が起こった。

犯人は当時25歳の白人男性、アレック・ミナッシアン。

アレックは事件前、facebookにある投稿していた。

「“インセル”革命はすでに始まっている!我々は“チャド”や“ステイシー”どもを全滅させる!“最高紳士エリオット・ロジャー”万歳!

 

鋭い人
インセル?チャド?ステイシー?エリオット・ロジャーって誰?

 

マインドパレッサー
インセルとは、自分の見た目がコンプレックスで、女性と付き合いたいと思っているけど、女性に蔑まれているせいで付き合えないと思い込んでいる人々です。「チャド」「ステイシー」はインセルコミュニティの隠語でそれぞれ、チャド=魅力的な男性、ステイシー=魅力的な女性という意味です。エリオット・ロジャーは2014年にアメリカで銃乱射事件を起こした犯人です。

 

なぜインセルは過激化してしまったのか。

その理由を彼らの心理面から考えていきます。

 

 

女性を憎む「インセル」とは?

インセルは「Involuntary(不本意な)Celibate(禁欲主義)」の略語で、不本意な禁欲主義者という意味です。

つまり、自分は女性と付き合いたいと思っているけど、女性が受け入れてくれなかったり、外見が悪いせいで恋愛やセックスするパートナーを得られないインターネット上のサブカル系コミュニティの人たちです。

 

「インセル」という言葉は元々、カナダ人女性によって考案されました。

彼女はパートナーがいない男女を応援する目的でサイトを立ち上げましたが、次第に、インターネット上に集まる女性を蔑む人たちを表す言葉として使われるようになりました。

 

インセルの歪んだ考え

インセルには以下のような歪んだ考えがあります。

  • 自分の容貌が見にくいと考えている
  • 女性たちからバカにされている
  • 女性は見た目の良い男性にだけ惹かれる
  • 女性はたとえ見た目がイマイチでも、セックスする相手を見つけられるが、醜い男性はお金を払うか、強制するしか相手を見つけられない

多くのインセルは、セックスをするかどうかは女性に決定権があり、女性は生まれつき浅はかだと考えています。

 

心の闇を加速させる「lookism.net」

見た目にコンプレックスがある彼らの心の闇を加速させるのが「lookism.net」です。

lookismとは、外見至上主義という意味です。

「lookism.net」はインターネット上の掲示板で、お互いの容貌を評価し、どこをどう直したら良いのかなどのアドバイスを行っています。

この掲示板では以下のようなやり取りが行われています。

「lookism.net」に自分の顔の下半分を映した写真を投稿し、

「これ直すのに、どんな手術が必要だと思う?見てわかると思うけど、俺のあごは凹んでいる」

すると、すぐに返信が投稿される。

「あごだけじゃなくて、上唇も凹んでいるな。お金があるなら、あごの矯正手術をした方が良い。お金がないならあごのインプラント、もしくはあごの整形が良い。下あごの角度のインプラントも調べてみたら?お金を貯めた方が良いね。」

引用:HUFFPOST「女性を憎悪する「インセル」とは?モテない男性の心の闇をネットが加速させる。」

 

lookism.netでは、こういったやり取りが毎日のように交わされています。

この掲示板で、男性たちは羞恥心や憎悪、「自分たちにも女性とセックスする権利がある!」と権利を訴える声に共鳴します。

そして、女性への憎しみを募らせていくのです。

lookism.netのような掲示板はいくつか存在し、こうした掲示板が「暴力的なコンテンツの温床になっている」といった批判が寄せられています。

最高紳士「エリオット・ロジャー」とは?

エリオット・ロジャーはインセルコミュニティでは「The Supreme Gentleman(最高紳士)」と呼ばれ、ヒーロー扱いされています。

ロジャーに影響を受けて、同じように殺人を犯したインセルも何人かおり、冒頭で紹介したアレック・ミナッシアンもその1人です。

 

エリオット・ロジャーはイギリスのロンドンで映画製作にたずさわる父親とマレーシア人の母親との間に生まれました。

ちなみに父親は映画「ハンガーゲーム」の助監督も務めたことがある人物です。

ロジャーが5歳の時に、アメリカのロサンゼルスに移住し、その後両親は離婚。妹と共に母方に引き取られることになりましたが、金銭的には恵まれて育ちました。

ロジャーは幼少期から内向的な性格で対人関係に問題があり、カウンセリングに通っていました。

彼は女性と付き合いたいけど、うまくいかず、鬱憤を募らせており、しばしばカップルや気に食わない女性グループに対して暴力沙汰を起こしていました。

そして、2014年5月23日、アメリカのカリフォルニア州アイラビスタで銃乱射事件を引き起こし、6人を殺害、14人をケガさせた後、銃で自分の頭を撃ち抜き自殺します。

彼はこの事件を起こす前にYouTubeに犯行予告とも言うべき動画をアップしてます。

 

https://www.youtube.com/watch?v=nn514Y2j73k

この動画を見て頂くと分かると思いますが、彼は他のインセルのように外見にコンプレックスがある、というわけではなく、「自分は完璧だ」と考えています。

そんな完璧な自分が大学生活という楽しい時間を孤独に過ごし、女性とキスすることも出来ず、22歳で童貞ということをかなり気にしています。

 

マインドパレッサー
22歳で童貞なんてザラにいると思いますが、彼には耐えられなかったのでしょう。

 

非モテはなぜ過激化してしまったのか?

恋人がいない時、クリスマスにカップルを見て

非モテ
くそっ!クリスマスに恋人がいるやつら滅びろ!

と羨むのは、けっこう多くの方が経験あるのではないでしょうか?

しかし、インセルの一部の過激な人たちは実際に悲惨な事件を起こしてしまいます。

彼が過激になる理由を心理学の観点から考えていきます。

 

危険な集団意思決定「リスキーシフト」

僕はインセルがインターネット上の掲示板での交流がなければ、そんな過激化しないのではないかと考えています。

なぜなら、人間は集団になると、過激な思想にシフトしやすいからです。

その理由は、

  1. 集団だと責任が分散されるから
  2. 集団の中での議論では強く、説得力のある意見に流されやすいから

1人ではしないような決断も集団になると、してしまうことがあるんです。

 

認知的不協和の罠

人間は一貫性を求める傾向があり、一貫しない状態(不協和状態)を嫌います。

例えば、

タバコは身体に悪いと分かっていて、自分はタバコを吸っていない。

実はタバコは身体に良いという噂を聞き、自分はタバコを吸っている。

この2つは情報と自分の行動が一貫しています。

しかし、

タバコは身体に悪いと分かっていながら、自分はタバコを吸っている。

これは認知的不協和の状態です。

 

人間はこの不協和の状態が嫌なので、以下のような行動をして不協和を解消しようとします。

  1. 行動の変化 → タバコをやめる
  2. 認知の変化 → タバコ吸わなくても死ぬときは死ぬと考える
  3. 新たな情報の付加 → 電子タバコとかはあまり有害物質がないらしい

インセルの場合だと、

自分たちは女性とイチャイチャする権利がある VS 女性と上手く付き合えない

という不協和が生じています。

タバコの例のように、不協和を解消する方法はいくつかありますが、インセルは女性に責任を転嫁することで不協和を解消することが多いようですね。

 

最後に

アメリカでは、外見を気にする男性が増えています。

アメリカ形成外科学会の統計によると、男性の整形手術は過去10年で急激に増加しました。回答した292人の男性の半分が「整形手術を検討したことがある」と回答したそうです。

ニューヨークで形成外科を開業しているダグラス・スタインブレッヒ氏によると、5年前に比べて男性患者の数は4倍に増えたそうです。最も人気の手術は「男性モデルパッケージ」。

この手術には、あご・胸筋・臀部の増強・脂肪吸引・腕と肩の増強が含まれています。

この手術費用は6000ドル~25000ドルだそうです。

 

マインドパレッサー
心理学的には恋人を選ぶときに外見を気にするのは男性の方が多く、女性は経済力の方を気にするんですけどね。

 

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2件のコメント

がんばってくださいね
僕はある時期までモテる男をうらやんだりしてきました
しかし、ある時ディケンズの「クリスマスキャロル」を紹介している文を読んで、気持ちが変わりました
穏やかにモテる男たちが世の女性を幸せにしてくれるのを応援しようと
随分簡単な話やなと思われるかもしれませんが、多分僕がモテる男への嫉妬といった感情から解放されたいという思いを持ち続けていたことがクリスマスキャロルをきっかけに結実したのだと思っています
また、小田急の事件もその思いを強くさせました モテないことで世の恨むことがいかに惨めなことか それではいけないと
単なるやせ我慢なのでは自問自答したこともありましたが、僕はモテないと悩むことからフリーになりたかったのです
ですから、今は掛値なくあなたのようなモテる男を応援したいと思えるのです

しんやさん
年末のお忙しい中、記事をご覧いただき、さらにコメントまでありがとうございます。
すごく励みになります!一つ訂正させていただくと、僕はしんやさんが思うようなモテる男ではないです。笑
でも、僕もモテないことを嘆くことを止めました。

アメリカの神学者であるラインホールド・ニーバーがこんな言葉を残しています。
“変えられるものを変える勇気を、変えられないものを受け入れる冷静さを、そして両者を識別する知恵を与えたまえ”

この言葉を聞いて、「他人の気持ち」という変えられないものをどうこうしようとするのは時間の無駄なので、
自分自身がカッコいいと思う人になることに集中しようと思うようになりました。
それでもモテないなら、「みんな見る目がないなぁ」と思うようにしてます。笑

改めまして、ご丁寧にコメントをお送りいただき、ありがとうございました!
良いお年をお迎えください。

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tetsuya
北海道在住の35歳。 元ホテルマン。30歳で一念発起して、大学に入り直し、心理学を学ぶ。医療機関で実務経験を積んだのち、公認心理師を取得。月に10冊以上本を読んだり、論文を読み漁ったりして得た知識をブログでシェアします。