家族の問題はこう考えよう!円環的認識論とは?

僕たちは何か問題が起きると、それには「原因」があり、その原因を見つけることが問題の解決につながるという考え方が習慣づいています。

「原因」→「結果」という認識の仕方を直線的因果律といいます。

 

しかし、こんな場面ではどうでしょうか?

息子が乱暴な言葉使いをする→母親が怒る→息子がより乱暴な言葉使いをする→母親がより怒る→・・・・

こうなってくると、もう何が原因で結果なのか分からなくなってきませんか?

 

そう考えると、「原因」→「結果」という直線的因果律は「原因と結果」の連鎖が続いた円環的な連鎖の一部を切り取ったものでしかないんです。

どこの「原因と結果」を切り取るかは観察者の都合で決まるのです。

 

つまり、「原因」→「結果」というのは解釈の1つに過ぎないので、全体像を把握するには円環的に出来事を捉える必要があります。

円環的に出来事を捉えることを円環的認識論といいます。

 

この記事では家族療法において家族の問題をどう捉えているのか、家族療法で重要な概念である円環的認識論の特徴を説明していきます。

 

 

 

IP(Identified Patient)という考え

家族療法では、家族の中で問題や症状を表した人のことをIP(Identified Patient)と呼びます。

IPとは「患者とされた人」という意味で、家族の中でたまたま問題行動や症状を表した人、家族全体の問題を代表して問題・症状を表している人と捉えます。

 

例えば、息子が非行をするようになってしまったとします。

その場合、

・その息子の性格に問題があるのではないか?

・悪い友達にそそのかされたのではないか?

などと考えます。

 

でも、もしかしたら父親がいつも帰るのが遅いため母親が不機嫌になり、家全体の雰囲気が悪くなったため、息子が非行に走るようになったのかもしれません。

一見、関係がないようにみえる「父親の帰宅時間」が回りまわって「息子の非行」につながっている可能性もあるのです。

 

このように家族療法では家族を個人の寄せ集めではなく、家族を1つの大きなシステムとして考えて、問題や症状はIP個人のSOSであると同時に、家族システムが出しているSOSでもあるのです。

 

円環的認識論の特徴

家族療法が他の心理療法と違うところは、個人の問題に焦点を当てるのではなく、家族を1つのシステムとして捉えようとしたところです。

家族のメンバー1人1人の性格だけではなく、その関係性にも注目し、それぞれの行為の連鎖やパターンに焦点を当てるのです。

 

このような円環的認識論には以下のような3つの特徴があります。

 

問題の原因を求めない

円環的に出来事を捉えるということは、出来事が起きた原因を1つに断定しないということです。

円環的認識論ではある出来事は関連する出来事との間で、原因にも結果にもなる関係性で結ばれています。

 

冒頭でも使った例を用いると、

息子が乱暴な言葉使いをする→母親が怒る→息子がより乱暴な言葉使いをする→・・・

というパターンが繰り返されるうちに何が原因で結果なのか分からなくなります。

 

家族療法では「息子の性格」や「すぐに怒る母親」のせいにはせずに、問題が続いているパターンに注目し、それを変化されることで問題を解消しようとします。

 

つまり、円環的に問題を見ることで誰の責任にもせずに解決にアプローチすることができるのです。

「悪者探しをしない」というのが、円環的認識論に基づく家族療法の基本的なスタンスです。

 

関係性に注目する

円環的認識論では出来事そのものではなく、出来事と出来事に間の関係性に注目します。

 

例えば、息子が頭痛で苦しんでいるとします。

直線的因果律の視点だと、風邪などを疑い病院へ連れて行くと思います。

一方、円環的な視点でみると、息子の頭痛が起きるときは決まって夫婦の口論があるとすると、「息子の頭痛」と「夫婦の口論」という関係が浮かび上がってきます。

 

円環的な視点に立つことで、出来事そのものから出来事と出来事の間の相互作用や関係性をみることが出来るのです。

 

今現在の問題をとらえる

僕たちはある問題を理解しようとするとき、「過去」にその原因を求めてしまいがちです。

しかし、円環的認識論では過去に原因を求めるのではなく、今現在の問題を維持している関係性やパターンに注目します。

 

今現在の問題の関係性に注目することで、家族をシステムとして円環的に捉えることが可能になるのです。

 

最後に

個人の心理的な問題や悩み、症状の80~90%は他者との関係の中から発生しており、個人の遺伝的な障害そのものへの治療を必要とするケースは20%以下です。

この現実を踏まえると、個人の問題だけにアプローチする手法だけでは限界があることが明らかです。

 

僕たちは「原因」→「結果」という直線的な思考に捕らわれ過ぎているのかもしれません。

物事を円環的にみることで、個人の問題を扱う場合だけではなく、日常世界においてもより深く理解できるようになると思います。

 

 

参考文献

「家族の心理」平木典子・中釜洋子 サイエンス社 2006年10月10日発行

「家族療法のガイドブック」日本家族研究・家族療法学会 2013年7月5日発行

 

▼このブログを応援する▼

にほんブログ村 メンタルヘルスブログへ
にほんブログ村

スポンサーリンク

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

ABOUT US
tetsuya
北海道在住の35歳。 元ホテルマン。30歳で一念発起して、大学に入り直し、心理学を学ぶ。医療機関で実務経験を積んだのち、公認心理師を取得。月に10冊以上本を読んだり、論文を読み漁ったりして得た知識をブログでシェアします。