マイクロカウンセリングとは、アメリカの心理学者であるアイヴィによって開発された初心者向けの心理カウンセリング訓練プログラム(Ivey & Authier,1978)です。
マイクロカウンセリングでは、広範な内容を含む心理カウンセリングの技能を細分化して、1つずつスモール・ステップで習得していくことを目的としています。
剣道や柔道などの武道では、基本練習を重視します。実践だけを繰り返しても、なかなか上達はしません。
一つ一つの技を磨いて初めて、技全体が向上していくのです。
これは武道だけに限らず、技能学習すべてがそうであると言えます。
マイクロカウンセリングでは、どのような技法があり、それぞれがどれほど難しいのかを示すために「マイクロ技法の階層表」というものがあり、分かりやすいです。
この記事では、マイクロカウンセリングの理論的な背景や流れなどについて簡単に説明していきます。
初学者向けの技法訓練法「マイクロカウンセリング」とは?
「マイクロカウンセリング」とは、1971年にアイビィによって提唱されたカウンセラーの訓練プログラムです(Ivey & Authier, 1978)。
マイクロカウンセリングは面接、カウンセリング、心理療法に適用しうるカウンセリングのメタモデルであるとみなされています。
つまり、この訓練プログラムは学派を問わずすべての面接、カウンセリング、心理療法に共通する基本的傾聴技法を扱っているということです。
マイクロカウンセリングは1セッションごとに1技法のみに焦点をあてて実習するところに最大の特徴があります。
マイクロカウンセリングの理論的な背景
マイクロカウンセリングの各技法の習得には、学習心理学(行動分析学)や社会心理学を専門とする心理学者のバンデューラが提唱した社会的学習理論が応用されています。
社会的学習理論における観察学習やモデリングを応用することで、新人の心理カウンセラーが効率よくカウンセリングの技術を習得することができるのです。
マイクロカウンセリングが極めて効果的な訓練プログラムである一因は、「モデリング」を巧みに用いる点にあると言えます。
良いモデルと悪いモデルを示し、それを比較することで何が重要なのかを浮き彫りにするのです。
マイクロカウンセリングが開発された当時、アレンとライアン(Allen & Ryan, 1969)による「マイクロティーチング」が教員養成学部において盛んになっていました。
マイクロティーチングは、教育実習の事前指導段階で、授業の中で数分程度のほんのわずかな時間、実際に教壇に立ったつもりで学生の一人が教え、他の学生が生徒役となって聞くという役割を演じ、あとで相互に評価し合うというものです。
アイビィはアレンと大学時代の同窓生で、アイビィは先輩であるアレンからこの発想を学んだと言われています(Ivey & Authier, 1978)。
マイクロカウンセリングの実習の形態
- 基本的に「聴き手」「話し手」「観察者」の3人1組で行われる
- 1回の面接は3分程度
- 同じ技法の練習で順に役割を交代しながら進めていく
- 椅子と役割は固定し、交代のたびに人に移動してもらう
- 3つの役割をすべて行ったあとは、3分程度の振り返りを行う
3人1組にすることで、お互いに役割を交代しながら3つの視点からカウンセリングを体験することができます。
また、実習に「観察者」を含めて外から眺めて感想を述べるやり方は、実習の質を高めるのに大いに役立ちます。
マイクロ訓練の進め方
マイクロカウンセリングは、系統的に1つずつ技法を学習していくスタイルをとります。
マイクロカウンセリングは以下の流れで進められます。
- 解説
- モデリング
- 練習
- フィードバック
これら4つのすべてが含まれることによって、効率的な学習を進めることができると考えられています。
それでは、一つずつ解説していきます。
解説
対象となる1つの技法について、その技法がどのような意味や機能を持っているのかを解説します。
解説の仕方によって、実習練習者の理解度が大きくことなるため、指導者は練習前にいかに適切な説明をするか、考える必要があります。
例えば、「はげまし」は単にうなずきの重要性だけを指摘するだけでは不十分なので、表情との関係やタイミング、ペースなど効果を左右する他の要素についても漏れなく解説する必要があります。
モデリング
モデル(実例)を見せて、実際にどのように行うのかを示します。
モデリングをするのにあたって、以下のモデリングの4つの下位過程について学んでおくことは重要です(Bandura, 1971)。
- 注意過程‐モデルのどこに注意を向けていたのか、注目した行動は適切か不適切か判断する。
- 保持過程‐行動の結果、報酬を受けたのか、罰を受けたのかなど結果を記憶として保持する。
- 運動再生過程‐行動の結果、報酬を得ていたら真似し、罰を受けていたら、別の行動を取る。
- 動機づけ過程‐注目した行動を真似した結果、報酬が得られたらその行動が強化され、罰を受けた場合は弱化される。
1つの技法について、良いモデルと悪いモデルの両方を見ると、どこに焦点を当てれば良いのかより分かりやすくなります。
練習
実際に練習することは技法を学ぶ上で最も重要です。
いざやってみると、想像していたのとは違う結果になることが多いです。
他の参加者もいるため、「無難にこなさないと」と思う気持ちもあると思いますが、成功するよりもむしろ失敗した方が技法を深く理解できるかもしれません。
というのも、失敗することで初めて、どこを改善すればよいのかが見えてくるからです。
フィードバック
実習参加者がみんな聴き手、話し手、観察者の3つの役割をとった後、お互いに感想を述べ合います。
自分が聴き手を演じた時の感想を述べ、その時の話し手の感想を聞き、観察者にはどう聴き手の姿が映ったのかなどを聞きます。
お互いの感想を聞いてみると、さまざまなズレがあることが分かり、思わぬ気づきが得られることがあります。
まとめ
- 「マイクロカウンセリング」とは、初心者向けに開発された技法を一つ一つ細分化して訓練していく心理カウンセリング訓練プログラム。
- マイクロカウンセリングの各技法の習得には、心理学者のバンデューラが提唱した社会的学習理論が応用されている。
- マイクロカウンセリングでは、「聴き手」「話し手」「観察者」の3人1組にすることで、お互いに役割を交代しながら3つの視点からカウンセリングを体験することができる。
- マイクロカウンセリングは解説→モデリング→練習→フィードバックの流れで学習していく。
【引用文献】
Allen, D., & Ryan, K. (1969) Microteaching Addison-Wesley (笹本正樹・川合治男訳, 1975『マイクロティーチング‐教授技術の新しい研修法』協同出版)
Bandura, A. (1971) Psychological Modeling: Conflicting Theories. Aldine-Atherton, Chicago.
Ivey, A.E., & Authier, J.(1978) Microcounseling: Innovations in interviewing, counseling, psychotherapy, and psychoeducation (2nd ed.). Charles C Thomas.
TERADA医療福祉カレッジ通信教育校「マイクロカウンセリングとは?」
玉瀬耕治(2008)有斐閣「カウンセリング技法を学ぶ」
1.初学者向けの技法訓練法「マイクロカウンセリング」とは?
2.マイクロ訓練の進め方
3.まとめ